医師・医者の離婚で知っておきたいこと
夫婦の一方又は双方が医師の場合、離婚にあたり考慮しなければならない特有の問題があります。
医師の場合、平均年収が高いうえ、保有する財産の種類も広範囲にわたることから、慰謝料や財産分与などが高額化したり、財産分与が複雑化したりして紛争となりやすい傾向にあります。
財産分与
通常、財産分与では、以下のような財産が対象と考えられます。
(1)不動産(自宅等)
(2)動産(家財道具等)
(3)預貯金
(4)保険(生命保険や学資保険など、貯蓄型のもの)
(5)有価証券(株式等)
(6)自動車
(7)退職金(将来受け取るもの)
医師の場合、一般世帯以上に資産を有していることが多いため、まずは上記の財産を正確に把握することが重要となってきます。
特に、医師の場合、(2)動産(家財道具等)、(5)有価証券(出資)、(7)退職金(将来受け取るもの)について、注意が必要ですので、ここではこの点についてご説明します。
有価証券(出資等)
夫婦の一方が医師で医療法人の理事長をしている場合、医療法人と医師とは別個ですので、医療法人が有している財産自体は財産分与の対象とはなりません。
ただし、理事長個人が、所有する不動産や金銭を医療法人に貸し付けていたり、医療法人の出資持分を有していたりすることがあります。
この場合は、所有不動産や貸付金、出資持分は医師個人の財産となりますので、財産分与の対象になる余地があります。
また、医療法人に利益が出ていたり資産を有していたりする場合、出資持分の評価額が高額になることもあります。
このような場合、その出資持分をどのように評価するかが難しい問題となります。
さらに、例えば、夫が医療法人の理事長で、妻を理事としている医療法人の場合、夫だけではなく、妻も名目上、出資しているケースが多くあります。
このような場合は、夫名義の出資だけではなく、妻名義の出資も財産分与の対象となり得ます。
しかも、医療法人への出資は、当該医療法人が不動産(医院)等の高額資産を保有していることが多いため、1口あたりの評価額が高額になることもあります。
また、医師は出資口数が多いことがほとんどであるため、出資だけでも大きな財産となります。
したがって、医師の出資については、対象財産に含める必要があります。
また、医師の場合、ゴルフを趣味とされている方が多くいらっしゃいますが、ゴルフ会員権等も対象となるので注意が必要です。
退職金
医療法人を経営している場合、理事長は、あくまで役員であり、従業員ではないことから、退職金がないと誤解されている方もいらっしゃいます。
しかし、医療法人の多くは、将来、理事が退任するときに退職金を支給するために医療法人を契約者、理事を被保険者として保険(長期平準定期保険や逓増定期保険等)を掛けていることが多く見られます。
医療法人がこのような形で保険を掛けているのは、節税目的が大きな理由です。
すなわち、多くの医療法人は経営状況がよいことから、役員報酬として支給するよりも、保険とすれば、その保険料の2分の1から4分の1程度を損金として処理できます。
そして、理事にとっても、現時点で役員報酬として受け取るよりも、将来、退任するときに退職金として受け取ったほうが税制上有利になります。
したがって、医療法人では、理事に退職金が支給される可能性が高いのです。
しかも、理事の退職金の額は、かなり高額になります。
そのため、退職金も財産分与の対象とすることを忘れないようにしなければなりません。
動産(家財道具等)
動産は、通常は時価評価額が乏しく、財産分与について、あまり問題となりません。
一般世帯では、問題となったとしても、夫婦のどちらが希望の家財道具(例えば、テレビ、タンスなど)を手に入れるか、というレベルです。
しかし、医師の場合、夫婦の一方が、高価な時計、宝石等の貴金属、絵画、骨董品等を保有している場合が見られます。
したがって、これらを忘れることなく、対象財産に含めることが必要です。
そして、これらを適切に時価算定します。