会社経営者の離婚で知っておきたいこと
会社経営者の離婚に際しては、会社員などの離婚と比較して、次のようなさまざまな問題を生じます。
- 財産分与の割合はどのように定められるのか?
- 会社の保有する財産は財産分与の対象となるのか?
- 夫婦が会社に関連して有する資産(株式・貸付金・退職金など)は財産分与の対象となるのか?
- 離婚相手が会社の役員になっている場合、どのようにすればよいか?
- 離婚相手が会社の従業員になっている場合、どのようにすればよいか?
- 養育費の額を下げるために役員報酬を切り下げる行為は許されるのか?
会社経営者の離婚にはこうした特殊な問題があることに注意する必要があります。
会社経営者(事業経営者)の場合、一般的に年収(役員報酬)が高いうえ、保有する財産の種類も広範囲にわたることから、慰謝料や財産分与などが高額化したり、財産分与が複雑化して紛争となりやすい傾向にあります。
なお、会社経営者の役員報酬は原則として1年間、金額を固定にしなければ経費として認められません。
したがって、毎月の役員報酬は一定額であることが多いようです。また、役員賞与(ボーナス)は経費にはなりませんので、役員賞与が支給されていないこともあるでしょう。
以下、特に問題となる点をご説明します。
財産分与の割合はどのように定められるのか?
財産分与とは、夫婦が結婚期間中に積み立てた財産を、離婚に際して分け合う制度です。
古い時代には、外で働いている夫の方が専業主婦の妻に比べて財産形成に対する貢献度が高いと考えられていたこともありますが、現在の裁判例では、専業主婦であっても家事・育児などを通じて財産形成に貢献していると考えられており、夫の経済活動による財産形成への貢献と、妻の家事労働による財産形成への貢献では、質が異なり比較が難しいことから、これを同等のものとみなし、財産分与の割合は1/2とするのが原則です。
しかしながら、たとえば医師などの高度な有資格者や、大企業の役員などのように、妻の貢献とは無関係に、自身の努力と手腕によって高額の収入を得ているケースもあります。
このようなケースでは、財産分与の割合も修正される場合があります。
会社経営者の場合にも、財産形成に対する経営者の寄与度によって、財産分与の割合が修正される可能性があります。
会社の保有する財産は財産分与の対象となるのか?
離婚は夫婦の問題であり、財産分与は夫婦の財産をどのように分け合うのかを定める制度ですから、本来、会社が保有する会社名義の財産は財産分与の対象とならないのが原則です。
例外として、第三者である会社名義の財産であっても、実質的に見て夫婦の財産と認められる場合には、財産分与の対象と認められる場合があります。
例えば、夫婦だけが会社に関与しており、会社と個人とが事実上同一であるというケース(いわゆる法人格否認の法理が適用されるケース)では、取得した財産を会社名義にするか、夫婦の名義にするかは、会社経営者の自由であり、夫婦の協力のもとで取得された財産が、たまたま法人名義になっているということもありえます。
このような場合には、会社名義とはいえ、夫婦の共有財産であると認められる余地があります。
また、経営者個人が、所有する不動産や金銭を法人に貸し付けていたり、法人の株式・出資持分を有していたりすることがあります。
この場合は、所有不動産や貸付金、株式・出資持分は経営者個人の財産となりますので、財産分与の対象になる余地があります。
また、非上場の法人に利益が出ていたり資産を有していたりする場合、株式・出資持分の評価額が高額になることもあります。
このような場合、その株式・出資持分をどのように評価するかが難しい問題となります。
夫婦が会社に関連して有する資産は財産分与の対象となるのか?
夫婦が経営する会社の株式を保有していたり、会社に対して貸付金を有していたり、あるいは会社に退職金の定めがあったりなど、夫婦が会社に関連して資産を有している場合があります。
このような資産についても、夫婦の共有財産として認められます。
ただし問題になりやすい点として、①それらの資産が結婚期間中に形成されたものといえるのか、②名目上の資産ではなく現実の資産といえるか、などの点があります。
結婚前から会社を経営しており、結婚期間中に形成された資産ではない場合には共有財産から除かれます。
また、税金対策などで実際には貸付金がないにもかかわらず貸付金計上をしているようなケースがありますが、このように現実に貸付金が存在しないような場合には資産とはいえません。
退職金については、会社が節税目的で小規模企業共済、長期平準定期保険などに加入している場合があります。
このような場合、離婚の時期にもよりますが、それによる退職金も財産分与の対象となる可能性がありますので、これらも忘れないようにしなければなりません。
離婚相手が会社の役員になっている場合、どのようにすればよいか?
夫婦で会社を経営している場合、配偶者が会社の取締役や監査役などの役員になっている場合があります。
このような場合、夫婦のいずれかが離婚を求めて別居を開始したり、あるいは離婚が成立したからといって、当然に役員報酬の支払いを停止したり、役員を解任したりすることはできません。
役員報酬とは、原則として役員の地位に基づいて発生するものであり、それに見合うだけの具体的な職務を行わなければ発生しないという性質のものではありません。
従って、別居が開始するなどして配偶者が会社の業務を行わなくなったとしても、それをもって役員報酬を支払わなくてよいというものではなく、後日役員報酬を請求される可能性があります。
役員報酬を免れるには、離婚等に際して、株主総会によって配偶者を役員から解任する手続を行ったり、配偶者から辞任届等を提出してもらう必要がありますので注意が必要です。
もっとも、配偶者の側としても、離婚後も取締役や監査役として残っていると、万一会社に何か問題が起こった場合に会社法上の損害賠償責任を負わされてしまう可能性があることから、離婚後は退任したいと考えるかもしれません。
このため、離婚協議の際に、配偶者から退任届を提出してもらうなどの対応を取ると良いでしょう。
離婚相手が会社の従業員になっている場合、どのようにすればよいか?
夫婦で会社を経営している場合、配偶者が会社の従業員となっている場合がありますが、離婚するからといって当然に給与の支払いを停止したり、解雇したりすることはできません。
離婚する配偶者とはいえ、労働者に変わりはありませんので、解雇するには、解雇理由があり、かつ解雇の適正な手続を踏まなければ、解雇は無効であるとして訴えられかねません。
とはいえ、配偶者も離婚する相手の経営する会社に勤務するのは望まないのが通常ですので、配偶者から退職届を提出してもらうなど、自主退職の処理を行うのがもっとも簡便な解決方法であると言えるでしょう。
養育費の額を下げるために役員報酬を切り下げる行為は許されるのか?
会社経営者は自分の役員報酬を自由に設定することができるため、養育費や婚姻費用の支払いを免れるために、自分の役員報酬をカットする場合があります。
しかしながら、このような業績に連動しない役員報酬の切り下げ行為は、養育費や婚姻費用を不当に免れるために行われた行為であると認定される場合があります。
こうした不当な行為であると認定された場合、役員報酬が切り下げられていても、従前の役員報酬と同等の収入があるとみなされ、これに応じた養育費や婚姻費用の支払義務が認められる可能性があります。