ハーグ条約とは?
平成26年4月1日、日本においても、ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)が発効しました。
ハーグ条約は、子の連れ去りによる有害な影響(生活基盤の急変、一方の親や友人との関係の断絶等)から子どもを守るために、国境を越えた子の連れ去りが起きた際の国際協力の仕組みや、国境を越えた面会交流の実現に向けた国際協力について定めています。
ハーグ条約ができたのは、国際結婚が増加し、離婚後に相手がパートナーの了承なく本国に子を連れ去ってしまう事件が多発したためです。
条約締結国は、現在約90か国(アメリカ、EU全加盟国、カナダ、韓国など)にものぼっており、加盟国と日本の間で起きた子の連れ去り、面会交流事件については、ハーグ条約に則って処理されることになります。
ハーグ条約を日本が締結する前は、日本から外国に子どもが連れ去られた場合、親は自力で居所を探し出して裁判所に返還請求をしなければなりませんでした。
また、外国で暮らす日本人が、我が子を連れて一時帰国をしたくても、裁判所に認めてもらえないという問題もありました。
それがハーグ条約を締結したことにより、双方の国の国際協力によって、問題をスムーズに対処することができるようになりました。
ハーグ条約の内容は?
ハーグ条約はどのような内容となっているのでしょうか。
国境を越えた子の連れ去りは、子にとってそれまでの生活基盤が突然急変するほか、一方の親や親族・友人との交流が断絶され、また、異なる言語文化環境へも適応しなくてはならなくなる等、子に有害な影響を与える可能性があります。
ハーグ条約は、そのような子への悪影響から子を守るために、原則として元の居住国に子を迅速に返還するための国際協力の仕組みや国境を越えた親子の面会交流の実現のための協力について定めています。
子を元の居住国へ返還することが原則
ハーグ条約は、監護権の侵害を伴う国境を越えた子の連れ去り等は子の利益に反すること、どちらの親が子の世話をすべきかの判断は子の元の居住国で行われるべきであることなどの考慮から、まずは原則として子を元の居住国へ返還することを義務付けています。
これは一旦生じた不法な状態(監護権の侵害)を原状回復させた上で、子がそれまで生活を送っていた国の司法の場で、子の監護について、子の生活環境の関連情報や両親双方の主張を十分に考慮した上で判断を行うのが望ましいと考えられているからです。
親子の面会交流の機会を確保
国境を越えて所在する親と子が面会できない状況を改善し、親子の面会交流の機会を確保することは、子の利益につながると考えられることから、ハーグ条約は、親子が面会交流できる機会を得られるよう締約国が支援をすることを定めています。
外国に子どもを連れ去られてしまった場合は?
子どもが連れ去られてしまった国が、ハーグ条約の締約国であれば、子どもの返還を求めることができる可能性があります。
この場合の手続は、日本の裁判所ではなく、連れ去り先の国で行う必要があります。
ハーグ条約に基づく子の返還の対象となるのは、監護権が侵害されている場合(不法な連れ去りの場合)です。
この場合、日本の法令に基づいて子の監護権を誰が有しているかがポイントとなります。
両親が共に監護権を有している場合(日本の民法に基づいて両親が婚姻関係にある場合など)
一方の親の同意なく、他方の親が日本から外国に子を連れ去った場合、日本に取り残された一方の親の監護権が侵害されたことになりますので、日本に取り残された親は、ハーグ条約に基づき、子の日本への返還を求めることができます。
一方の親のみが監護権を有している場合(日本の民法に基づいた離婚により一方の親が親権者として指定されている場合など)
(1)監護権を有していない親が、子を日本から海外へ連れ去った場合
監護権を有する親は、監護権を侵害されたことになりますので、ハーグ条約に基づき、子の返還を求めることができます。
(2)監護権を有している親が、子を日本から海外へ連れ去った場合
日本に取り残された親は、そもそも監護権を有していないので、監護権が侵害されたことにはなりません。
したがって、この親は、ハーグ条約に基づいて子の返還を求めることはできません。
ただし、監護権を有していない日本に取り残された親が、海外で別れて暮らす子と接触することができる地位を有するにもかかわらず相手親により面会交流が妨げられている場合には、中央当局に対し、連れ去られた子との接触(面会交流)の機会の確保のための援助を求めることができます。
外国から日本の子どもを連れて帰った場合
平成26年4月以降に、相手方の同意なく、子どもを外国から日本に連れ帰ってこられた方は、相手方から、ハーグ条約に基づき返還請求をされる可能性があります。
この返還請求は、原則として、子どもを元住んでいた国に返還しなければならないという手続であるため、的確な反論を行う必要があります。
また、審理はきわめて短期間(平均審理期間は申立てから6週間と想定されています)かつ専門的です。
返還請求をされないかご不安に思われている方は、もし返還請求をされた場合に早急に対応する準備をしておく必要があります。
子が居住している外国の法令に基づいて、子の監護権を誰が有しているかがポイントとなります。
特に、外国の法令に基づけば離婚後も両親が共に監護権を有している場合がありますので、注意が必要です。
両親が共に監護権を有している場合
海外に取り残された親は、自身の監護権が侵害されたとして、子の返還を求めてくることが想定されます。
一方の親のみが監護権を有している場合
(1)監護権を有する親が、子を海外から日本へ連れ去った場合
海外に取り残された親は、そもそも監護権を有していないので、監護権が侵害されたことにはなりません。
したがって、当該親は、ハーグ条約に基づいて、子の返還を求めることはできません。
ただし、監護権を有していない海外に取り残された親が日本で別れて暮らす子と接触することができる地位を有するにもかかわらず相手親により面会交流が妨げられている場合には、中央当局に対し、連れ去られた子との接触(面会交流)の機会の確保のための援助を求めることが想定されます。
(2)監護権を有していない親が、子を海外から日本へ連れ去った場合
海外に取り残された親は、監護権を有していることから、当該親の監護権が侵害されたことになりますので、ハーグ条約に基づき、子の返還を求めることが想定されます。
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